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事例 09

相続に前向きになれない場合も気持ちに寄り添って最低限の対策を

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税理士が知らない不動産オーナーの相続対策

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Ⅰさんのお父様は複数の収益不動産を保有。80代に差し掛かったのですが、健康面に不安はないため、相続の話は全くする気がなく、話題に出すのも難しい状況でした。(画像はイメージです)

 
愛知県名古屋市にお住まいのⅠさんのケースです。
Ⅰさんは財産ドック名古屋東センター主催の相続セミナーに何度か参加されており、個別にもっと具体的に相続の話を聞きたいと私たちのもとに相談に来られました。
 
相談内容はお父様の相続に関することです。
Ⅰさんのお父様は名古屋市内に賃貸マンションや駐車場、テナントビルなど、収益不動産を複数保有している資産家です。
お父様はまだ元気ではあるものの、80代に差し掛かったこともあり、万が一のことがあったときに相続税を支払うことができるのかという不安がⅠさんにはありました。
 
さらに、これらの不動産のうちいくつかは、お父様だけでなく、お母様、Ⅰさん、Ⅰさんの妹さん二人との家族五名の共有名義になっているそうです。
共有名義で土地や建物を所有していると、遺産分割が複雑になるため、もしこのまま相続が発生してしまうと、相続財産を分けることも難しいのではないかとⅠさんは考えていました。
 
万が一のときに備え、お父様に「遺言書だけは残してほしい」とお願いをしていたそうですが、お父様は週に一度はゴルフに行くなど、健康面に不安はないため「相続の話はしたくない」と一蹴されてしまい、話題に出すことも難しい状況になっているということでした。
 
「専門家を交え一度父に話を聞いてもらいたい」、そして「相続について父が元気なうちに対策をしたい」とご要望をいただきました。
Ⅰさんからの相談を受け、まずはお父様とお話をすることから始めました。
税理士、司法書士も交えた場を設けてお父様からお話を伺ってみると、お父様ご自身でも相続に対する考えはしっかりと持っていました。
現在保有している資産や不動産についても、誰に相続させるのかすでに決めている様子でした。
しかし、自分が亡くなったあとのことは考えたくないため、まだ相続対策も取ろうと思えないし、遺言書も書く気持ちになれないというのがお父様の率直な気持ちでした。
 
その後も継続的にⅠさんも含めて面談をして、お父様の相続に対する考えを伺っていきました。
対策を行わないことで起こり得る問題点などをお伝えしていったことで、時間はかかりましたが最終的にはお父様からも「遺言書は書きたくないけれども、相続の対策くらいはやっておきましょう」と言っていただけるようになりました。
 

問題点 1

「不動産相続」に向けた準備ができていない

お父様の考えに変化があったことで、改めて相続対策のための方法を考えていくことになりました。
問題点の一つは、相談者であるⅠさんも心配していた家族五人の共有名義の不動産です。
共有名義で不動産を所有していると、不動産について何をするにも全員の同意が必要となります。
さらに相続時にはそれぞれの相続人の感情が入り混じり、財産の分割がさらに複雑になる可能性があります。
お父様が亡くなったあとに兄妹間で揉め事にならないようにするためにも、共有名義を整理して、財産の分割をしやすい状態にしておくことが必要でした。
 
また、Ⅰさんのお父様が保有している資産のほとんどは不動産です。
対策をするためには不動産の価値を正確に評価し、相続税がどれくらいかかるのか、また不動産がどのように運用されているのか、その収益性についても調査する必要がありました。
 
調査を進めてみると、賃貸マンションや駐車場に関しては適切に運用されており、現状のままで問題はありませんでした。
しかし、他の資産でいくつか問題になりそうなものが見つかりました。
一つは以前お父様が住んでいた建物が、資産性が高いにもかかわらず空き家になっていること。
もう一つが駅前にあるテナントビルの壁や内装の老朽化が進んでおり、近い将来、修繕が必要になることでした。
 
現状のままお父様の相続が発生すると「資産価値は高いが収益が発生していない不動産」と「資産価値もあり収益を生んではいるが、将来確実に大規模な改修が必要となる不動産」をⅠさんたちは相続することになり、無駄に高額な相続税と改修費が発生することが判明したのです。
また調査の結果、不動産に比べて預貯金の比率が明らかに少ないこともわかり、このままでは、お父様が亡くなったときに相続税を支払うことが難しい状況に陥ることが予測されました。
 

解決策

気持ちに寄り添い、今できる限り最善の対策を

まず取り組んだのは、家族五人の共有名義だった不動産の整理です。
お父様の心の中では、どの不動産を誰に相続させるかは決まっていたため、5分の1ずつだった共有名義を、将来的に相続させたいお子さんと、お父様、お母様の3分の1ずつの共有名義に変更することを提案しました。
例えば、テナントビルはお父様とお母様とⅠさん三人の共有名義、駐車場はお父様とお母様と上の妹さんの三人の共有名義といった形です。
 
お父様の相続になった際には、遺言書のような効力はないもののお父様の意向はしっかりと汲み取ることができます。
さらに、問題点で述べたような共有名義者とのトラブルも生じにくくなります。
また、共有名義になっていたものを整理する際には、同価値の不動産を等価交換する(事例06参照)という方法を用いて贈与所得税がかからないようにするなど、極力名義の整理による税金の支払いが発生しないようにしました。
 
次に、現在所有している不動産のうち、将来高額な相続税や改修費がかかってしまう二つの物件について対策を考えました。
以前お父様が住んでいた建物は空き家にはなっていたものの立地が良かったため、当初は融資を受けて賃貸マンションを建設したらどうかと提案していました。
しかし「借金はしたくない」というお父様の意向もあり、空き家を壊して事業用借地としてテナントを誘致することで話がまとまりました。
 
ただ、空き家になっていた土地や建物はお父様名義の不動産だったため、事業用借地として貸し出すと収益はお父様に全て入ることになり、相続税はどんどん高くなってしまう一方です。
そのため、お父様の積み上がっていく収入を、相続になった際に家族に負担がかからないバランスにするにはどうしたらいいのかという点が相続対策の焦点となりました。
 
そこで、私たちは修繕が必要になる状態だった駅前のテナントビルの改修を提案しました。
空き家のあった土地を活用することで現金を得られるため、その現金を利用して改修を行うのです。
こうすることで、お父様が所有する現金は減らすことができ、将来の相続財産を抑えることができます。
 
借金はしたくないというお父様の意向にも沿いつつ、老朽化していたテナントビルの収益性の向上も行って、将来的にも優良な不動産として子どもたちに承継していくことができる、効果的な対策だと言えます。
Ⅰさんもお父様もこの説明を聞き、納得してすぐに実行に移していただきました。

Ⅰさんのお父様は今もご健在です。
共有名義の不動産も整理され、テナントビルも相続したあとに手間も費用もかからない優良な物件になったことで、Ⅰさんの将来の相続への不安も解消されたそうです。
お父様にとってもⅠさんにとっても、今回の相続対策は非常に満足のいく結果になったと言えるでしょう。
 

まとめ

まだまだ元気だからと対策をしないでいると、いざ相続が発生した際にトラブルを招いたり、金銭的な負担をかけてしまったりすることが起こり得ます。様々な想いに寄り添える対策の方法はあるので、ぜひ早めに考え始めてみてください。